顛末報告

結局、私は生きているし、これからも生きることになりそうだ。
そのことについて、きちんと説明する必要があるだろう。

もとより(2014年、あるいはその以前のことだ)私はこの世界が嫌いだった。
それが加速していく中、2014年この世界に戻った時には、後世に遺すべきものを仕上げたら死ぬつもりでいた。
それは計画的で、妨害されつつも遂行されてもいた。

しかしながら、2ヶ月後にはみずきと出会う。

この世界に存在する意味などなかった。ただ、存在を否定されつづけて、もしその観測世界が世界のすべてであるならば、この世界は私にとって価値のないものであり、また私にとって価値を形成しない世界であるならば、私がいないことを望む人の願いをかなえることが、たとえそれが私にとって忌むべき邪悪な存在であったとしても、相対的には最善の価値を形成した。
しかし、みずきと出会ったことでこの世界は存在する意味と価値を、私の中に形成した。
みずきが存在する世界ならいきたいと思った。どのような過去であれ、世界であれ、みずきと出会い、ともにいきるための道程であったならばよいと思えた。

それから私はみずきといた。世界にとって唯一の価値であるみずきは、まぎれもなく私のすべてだった。
みずきと共に生きる。まぎれもなく彼女を愛し、彼女と共にある未来を望んだ。そして、そうあろうとしたけれど、私はやがて道を誤っていった。

そして、みずきにはとてもひどいことをした。許されざると思う。
それでも、償いたかった。だが、ともにあることを拒否され、償う術はなかった。

みずきは戻る意思を保留したため、私は待った。
けれど、みずきは戻らなかった。世界のすべてだったみずきを失った私は、みずきと共に築いた全てと共に死にたかった。

死ねない、ということは前々から思っていた。
「偶然」によって、生還の可能性に乏しい状況から何度も生還している。
だが、そのような「運」だけによるものでもなかった。
例えば、体温が31℃前後まで落ちても、血糖値が40mg/dL未満となっても、首を絞められ意識を失い、2階からゴミ捨て場に投棄されても、死ななかった。それどころか、大したダメージもなく、自覚すら乏しかった。
「死なないのではないか」という思いは前々から持っていた。

自殺は確実性を考えれば、首吊りであるという。確実である上に、苦痛も少ないというのだ。実際に死んだ人に感触を尋ねることはできないため、死の苦痛については情報の信憑性に乏しいが、首吊りに関して言えば「中止することが可能」なので、ある程度信用できる情報になる。

やり方や感触を研究すべく、非定型からはじめた。
比較的軽く吊っても、「おえっ」となってしまう。苦しいということよりも、気持ち悪いのと、痛い。
タオルを巻く、喉仏を避ける、といった話もあるが、実際に試してみても軽減されなかった。喉が出ている、というようなことがあるのだろうか。
首の筋肉を鍛えていることが仇となり、まるで落ちない。そもそも、「おえっ」となるときの反射の力が強すぎて、体重がかかっていてもロープを押し戻し血流を戻してしまう。

あまりにもうまくいかないために、いっそ定型で一気にいくしかない、と2度試みたが、結局体重よりも反射のほうが強く、血流が止まったり戻ったりで非常に強い苦痛が延々続いた。意識も結局落ちなかった。

どうしてもうまくいかない場合の方法として、後ろでも吊れる、ということを知った。非定型で試みたところ、意識は落ちた。
ただし、非常に強く揺れている、揺らされて不快である、なぜこんなことになっているのか、というような状態で眠りから覚めてしまう。
結局、足でブランコをこぐように体を揺らしていて、不安定な状態にあった。夢から覚めるようにゆるやかに覚醒し、一度覚醒すると落ちることはできなかった。

とはいえ、うまくいきそうだ、ということで後方からの方法で定型で吊ってみた。
だが、それすらも、やはり「ゆすられている」という感覚と共に覚醒し、一度覚醒してしまうと苦痛を感じるだけで落ちる様子はない。
体が勝手に動く状態なので、非定型ですら吊ったロープを外すのは難しいのだが、耐えても意識が落ちもしないという状態ではこの苦痛に耐えるのは難しい。定型で行った際にはかなりの時間をかけて、ドアノブを利用して体重を抜いてロープをゆるめた。

首吊りはかなりの痛みが残る。ロープで体重を支えるのだから当然だろう。そのため、連続で試みるのは難しい。
この間は結構な期間があり、その間には私を必要とする人がいて、その人がいる間だけ、その人のために生きてみたりもした。
理由はもう少しないではないが、そんなことは些事だろう。
誰かが必要とする間だけ、誰かのために生きることは、私にとってもとよりの宿命のようなものなのだから。

そんな中、今の彼女と出会った。

彼女とはもとより恋愛関係にあった、というわけではない。そもそも、その時点で私を必要とする人がふたりいて、その話は出会ったときにすでにしていたのだ(だから彼女は、私のことを最初チャラい人だと思っていたらしい)。
むしろ、彼女に対する印象は、恋愛からは遠いところにあったと言っていい。

しかし、いくつかの偶発や、流れによって、結果的には近づき、そして好かれる結果となった。
好かれたところで答ええない、という気持ちが強かったのだが、いつの間にやら私にとってもまたなくてはならない人になっていた。

彼女を選ぶことを求められ、それに応じた矢先に、彼女は裏切ることを選ぶ。仔細は省くが、結局のところ彼女は自身にとって都合の悪いことをなかったことにするために、嘘をついて私を警察に突き出す、という選択をしたのである。

以前述べた通りに、私は警察に追われているのではないか?という疑念があった。
確度は十分ではなかったが、それなりに根拠はあった。考えられる原因はなかなかに多い。なんといっても、私がみずきを失ってから行っていたチャットは、非常に危険であり、そこにいる人々は総じて常軌を逸していた。
その言動は常識や理屈では測れなかったし、なにを言われても、なにをされても不思議ではなかった。
より世界が嫌いになっていた。
私は戻ってきてから、最初にみずきにあったから、この世界が善いものであるような錯覚をおこしていた。だが、今まで経験してきた通りの、吐き気のする世界は依然としてそこに存在していた。

この疑念については、彼女には簡単にしか話していなかった。
しかし、実際には話したことよりはるかに多くのことを、話すよりずっと以前に知っていたらしい。
そして、それを知った上で、害意を持って行ったということだ。

普通ならそこで終わる話だろう。それならいつもの世界だった。
だが、この先は少し違った。彼女は後悔したのである。そして、私を愛していたのは嘘ではなく真実であり、すべてなかったことにしたい、取り戻したいと強く願い、訴えたのである。

それが真実ならば、という前置きのもと、彼女が望む「取り戻す、また一緒にいる」ということを叶える術を追及した。
もちろん、彼女が実行しなければ儚く消えるものでしかない。
何度も逃げ出し、なんとか思いとどまって戻った彼女は、果たしてそれを保った。
親によって監禁される事態に至ったが、それならばと覚悟を決めて、駆け落ちすると決意し、それを果たした。

みすぎのことは知っている。追われているのではないかという疑念も知っている。未来が描けないことも知っている。死にたいと願っていることも知っている。
けれど、彼女は、一緒に生きることを、自らが壊してしまったものを取り戻すことを望んだ。

それでうまくいくか、といえば須らくそうはならない。
出会って2ヵ月足らずでの駆け落ち。息も乱さず共になければ終焉を迎える状況。
いきなりそこまで近づけるはずもなく、互いに理解できずにいることからすれ違い、喧嘩をし、度々ひどい結果にもなった。
「うまくいっていた」とはいいがたい。ふたりで、互いしかないものとして必死で生きてはいたが、それは瓦解しそうな舟であった。
当然に傷つけあう結果となり、それでも前進しながらなんとか形にしていった。
しかし形になるや、私たちはひどい喧嘩をした。互いに引けず、責め合う状況は、今までで最も終焉の目の前にいた。

みずきとの日々を、もうどれだけ後悔しただろう。
みずきと同じ状況で、同じ言葉で責める私を、どれほど嫌悪したことだろう。
たったこれだけのことを、これほどの後悔をもって変えることすら、なんと難しいのだろう。

突き刺さる彼女の言葉の中に、気づくものがあった。
終わりを口にするとき、間がある。それは私のせいだというだけであり、自分が別れたいのだとは言わない。
終わりを望んでいるのだろう、と詰れば、黙ってしまう。
「終わりたくないのではないか?」

果たして、それは正しかった。
とめてほしいのか。助けてほしいのか。彼女は答えなかった。
黙っているのならそうみなすといって動き出した。彼女は、即座に従った。
家について、彼女はすぐに後悔を口にした。とんでもないことを言った、思ってもいないことを言った、そう後悔を口にした。

でも、私にも後悔が残った。彼女の言葉は、そのすべてが思っていない言葉なのか?
並べられた言葉の多くは、愛しているから、愛されたいから、そうしてくれないから、その訴えだった。

変えよう。変わろう。
そう思った。そのことを話し合うつもりだった。
だが、なんと無常にもその日、デートの最中に私は警察に拘束されることとなった。

わかっているだろう、と言われても、なにをしてもおかしくない人々との交際が続いている状況、なにもわかりようがない。
原因も、結果も推測するには幅がありすぎるのだ。

結局のところ、元彼女(みずきより後、彼女よりも前である)を殴り、怪我をさせた、ということによって逮捕されたのであった。
ディティールは不明だが(告げられることはない)、それだけとれば間違ってはいない。それを問われることについて特に異論はない。

殴った理由について説明しろと言われれば、みずきと生きた日々や、築き上げたものや、みずきといた空間を破壊し続けることを許せなかった。
そのことについて悪いと思わないのかと問われれば、そうした状態で彼女を(好きではなかったし、好きにもなれなかったが)受け入れたことも、結果としてかなり危ういけがをさせたことも(打撃の方法として、死に至る可能性もある怪我の仕方をした。その境界は加減の問題でしかなかった)、申し訳なく思う。
もちろん、それによってその子がしたことを肯定できるということではないが、だから私のしたことが否定されないとは思わない。

そんな中途半端な状態で心の準備もないまま突如引き離された彼女であったが、ここで違いを見せつけた。
私を否定して逃げるようなことはしなかった。
戦うことを、待つことを選び、そしてそれは言葉だけではなかった。
ならば、戻らねばならぬ。少しでも不安を除かねばならぬ。

彼女は、印象ではしっかりして見える。強くて、一人でも生きていけそうにも。
だが、実際は逆だと言っていいくらいだ。惑わされやすく、芯もなくてぶれやすく、一人では不安で仕方ない。
抵抗することが、とても苦手だ。私に対してだけ反発するのは、もしかしたらそれだけわかってほしいという気持ちが強かったり、あるいは気を許しているのかもしれなかった。

実際、迷い、惑わされ、だまされもした。
信じ続けることは難しかったらしい。
だが、終わらせなかった。ただ愛し、ただ信じ、ひたすらに待ち続けた。
力づくにも、だましてでも引き離そうとする親をはじめ周囲にも、彼女は負けずにひたすらに戦った。

その心は、弁護人にも届いた。
彼女のために、早く帰るために戦わなければならない。
私にそう言った。

国選弁護人であったが、素晴らしく尽力していただいた。
間違いなく、その尽力あってこその結果であると思っている。

検事にも恵まれた。
これまでであれば、相手の言うことこそが真実であり、わずかな相違も許さず、結局のところ肯定しようが否定しようが、恫喝し、まともに言わせもしなかった。
だが、今回の検事は違った。
相手の言うこと鵜呑みにする気はないし、信じ込んでいるわけでもない。最初にそう宣言した。そんなことを言う人は過去にもいたが、実際に私の言葉と天秤にかけた者はいなかった。
だが、彼は事実、相手の言うことを信じてはいなかった。同時に、私の言うことも信じてはいなかった。
天秤にかけ、慎重に測っていた。私がいう、相手がどのような人物であるかという話も、きちんと覚えていた。

経過は、いつものようなことになった。
最初は事実であったはずの話は、いつの間にやら盛られ、作られていく。
そしてそれを強制されるのが、これまでの流れであった。だが、今回、結果は違った。

事実は、事実である。それは認めている。
彼は、どうでもいいような祖語を否定の理由にするために、情報を隠匿するようなことはしなかった。
記憶していることが何を指しているか、照合するための情報は提供された。
あの場所にいた中でも、とびきりに理解しがたいその子について、事実鵜呑みにするようなことはなく、どんどん作られていく話にも、変わってしまう話にも疑問を抱いていた。

果たして、事実だけが裁かれた。

それは喜ばしいことだった。この世界で公正さを見つけたのだから。
しかし、私は彼女のところに早く戻り、彼女を幸せにする指名がある。
その幸せすら、十分な意味を持たない。

彼は、もったいないことをしていないで、もっとその力を発揮するのだ、という。
死なないよね。何度も確認された。

私に、生きろというのか。

処罰は罰金刑となり、望みはかなって彼女のところに戻ることができた。
これまでの苦しい日々を思えば、20日で禊げるのであれば、むしろとてもよかったと思う。
実際には死ぬために過ごした日々の残滓が、生きるための障害とはなるのだが、彼女と生きられるのなら、そんなものどうってことはないだろう。

結果としては、死ぬことはかなわず、その日々を清算し、新たな伴侶を得て生きることになった。

簡単なハッピーエンドではない。みずきのことでの傷は深く、癒えはしない。
そして、彼女を愛するほどに、彼女のために生きるたびに、みずきにそうしなかったことを後悔し、痛みを重ねていくことになる。
しかし、それが一生かけても足りない罪の結末だろう。

それを知ってなお、傍に居続けてくれる彼女のために、私は生きていく。

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